弟子筋コラム  
隻眼先生の環境マンダラ(連載第11回)

      マンダラ裏街道の再評価

 先生,10月号は少し分かりにくかったと言われましたよ.何せ,接手学に釜本が出てきたりするものだから.私の腹の虫の居所が悪かった所為もあったのですが・・・.
「そうだね.釜本得点王の影には必ず別の役がいるのですね.得点王ばかり集めてもsoccerはできないのに,学問社会ではそういう群れがいつも時の権力に使われている,ということは言ったよね.」

『疫病神』と『産廃コネクション』
 詳しいことは忘れたが,自民総裁選で<堪え難い悪相ども>が何度も登場し,慎太郎までを加えてどこかの料亭で駆引きばかりしていたのも,私の気分が悪かった原因である.まるで(暴)の跡目相続の抗争ではないか.しかし一口に(暴)と言ってはいけない,これからは(裏)にしよう.連載の(2)で紹介した黒川博行の『疫病神』でも廃棄物の裏事情を(裏)がよく調べていたし,石渡正佳『産廃コネクション』(WAVE出版, 02.12)に至っては,(暴)だけではない収集運搬・処理などの(裏)が,廃棄物処理法の網目を見事にかいくぐって,産廃の不法投棄でたっぷり稼いでいるのである.この<コネクション>がまさに先生の言う接手だなと実感させられた.
 「あのね流石君,著者の石渡は千葉県の正規の職員で,銚子市の産廃不法投棄を一掃した<産廃Gメン>のリーダーでしたね.裏街道のどこで調査データを仕込んだのかをあまり書いてないので,石渡自身がコネクションの元締めだったという設定にすると,この本はルポではなく小説に早替わりします.ただし地名や人名を入れないと面白くならないですが.この本とは無関係ですが『金曜日』8月29日号には,岩手・秋田両県に接している青森県田子(たっこ)町で,正規の処分場が核になった日本最大の産廃不法投棄のレポートがありましたね.皮肉なことに田子町は最初89年に千葉市が廃棄物の押し売りをして新聞のscoopになったのです.今度青森・岩手両県が摘発したのが99年で,土地所有者や関係業者はすでに行方不明だというから,コネクションの5W1Hを全部詳しく調べるには天文学的な費用がかかりますよ.」
  そういえば『選択』9月号には,千葉県の談合仕切り屋の5才の息子の七五三祝に政官暴の大物が集まった,という記事がありました.3年間に2000件もの談合があったともいうことでした.なぜ千葉県ばかり?という疑問も湧きますが,全国どこでも同じなのでしょうね.
「多分そうです.78年にアメリカのNiagara Falls市でLove Canal事件が起きたとき,EPAが有害産廃不法投棄の全国調査をしたら類似の場所が12000ヶ所もあったということで,原因企業の復元責任は無論,汚染土地を用地として買った人,融資した銀行まで罰するというSuper Fund法ができました.日本でいくら廃棄物やリサイクル関連の法律ができても,全部現場を見ない役人の作文で抜け穴ばかり,CO2の京都議定書からアメリカが離脱したことを単純には責められないですよ.」
「それからね,『産廃コネクション』にはもうひとつ非常に大事なことが書いてあります.これは石渡自身もまだ気づいていないことです.全体の収まりの関係上<リサイクルの虚実>が不法投棄とは別枠になっていますが,例えば,年500億円が居ながらにして懐に入る「容器包装リサイクル協会」と行政・諸企業の関係が,道路公団と下請企業の関係と同じだ,と鋭い分析をし,容リ法は国家公認のトリックだ,と喝破していますね.つまりリサイクルとは,機能・規模未解明のcycle空間へのゴミの不法投棄だ!と位置づければ,リサイクルのインチキさがわかりますよ.僕は75年頃から,前提になっている都市問題の<虚>の部分を偽証するから単純なリサイクルには反対してきたのですが,バブル経済でこういう意見は吹き飛ばされてしまったなー.」
  武田邦彦『リサイクル幻想』(文春新書,00.10)のようなリサイクルをnegativeにみる本も出始めましたが,これに対して慶応のH・Eがムキになって反論していましたよ.自分の居城が危ういからでしょうが,日本はなぜこんなことになってしまったのでしょうか?

裏側を表に引っ張り出せ
「日本はまだまだ後進国で,鉄は国家なり,自動車は国家なり・・・の発想で,これらの巨頭が経団連の会長をしてきたでしょう.最近やっとマチ金融が加盟したり類似団体に土建が顔をのぞかせたりしていますが,いかに大企業が<環境々々>と言っても,あくまで環境は仮面,本音はわが社の繁栄なのですよ.それを旧通産,現経済産業省が掩護してきたのです.ちょっと古いですが,96年8月30日にフジTV系列が<無念・ある官僚48才の壮絶死>をドキュメンタリー大賞作品として放映しました.91年の廃棄物処理法の改正で,厚生省の環境整備課長の荻島国雄は企業責任の明文化と費用負担の適性化を目論んだのです.ところが通産のリサイクル法はすんなり行ったのに,彼の仕事は難渋を極めました.彼は胃ガンによる死の宣告も受けていて,病床からの叱咤激励に部下も頑張ったのですが,できた改正案は完全に骨抜き,それを上司は120%の出来と絶賛しました.エピソードとして千葉・多摩・栃木などでの不法投棄や産廃紛争が映し出され,番組では<経済馬鹿大国>の表現や,通産経由の財界圧力を言い切りました.僕はこの時の上司を知っていますし,荻島をサポートすべき課長補佐が外郭団体に出されていたことも知っています.荻島は92年4月に死にますが,遺言は<役人のいうことを聞くな!>だったそうです.」
  先生はこういう番組の記録をどうやって残しているのですか.
「録画すべきかどうかの判断はすぐにはできないし,それにいつも仕事をしながらTVを見ているので,要点をメモするだけです.でも例の頭の抽斗を開閉してその中味も一緒にメモしておいて,なるべく早くパソコンにinputします.こうするとね,日時までは記憶できないが,あらすじは大体覚えてしまいますよ.」
隻眼先生の言い分を先取りすると,これほど企業優先社会なのにその経営者が世襲制だったり,せいぜいPeter’s Principle型になるので,日産のCarlos Ghosn社長のような例が必要になるのだ.でもGhosnの業績は,猛烈なリストラとFairlady Zの復活だけではなかったか.だから,組織的に一定期間不法投棄を成功させるような戦略家の(裏)を経営側に引っ張り出せばいい.これは暴論ではない.昔は任侠という言い方もあったし,シカゴのAlphonso Caponeはギャングだが,稀代の悪法だった禁酒法(1919−33)の時代にJack Daniel’sの密造と密売を擁護していたのだ.これは80年頃に『禁酒の時代』(常盤新平,サントリー博物館文庫)で読んだ.Caponeは20年代のheroでもあった.
「いい着眼ですよ.今は少し様子が変わってきましたが,大企業のスキャンダルや粉飾決算を嗅ぎつけるのが仕事の総会屋が締め上げられています.でもね,企業側の問題の方が大きいかもしれないです.1株株主が総会に出席して原発の情報公開などの緊急動議を出すのを妨害するために,たとえばK電力がどんな汚い手を使ったか,こういう時は総会屋も頼りにならなくて,全社員がいっせいにあることをしたんです.」
  <あること>の中味は私も知っています.それをここで披瀝しないのは武士の情けですか?Kには2つありますからKyのほうだと公表しましょうや.

われわれはゴミと闘っているか?
(裏)への目配りの必要性は大体わかったが,まだ何か基本的なことが抜けているような気がする.
「やっぱり池澤が言った三塁ベース上で生まれる喩えは非常に大事です.僕の友人に金融のゴミ処理を仕事にしているのがいて,50万円の借金が1年で7800万円にもなり,破産か夜逃げか,2コある臓器は1つ売れと脅かされる,まさに(暴)の世界と闘っているのです.処分用地取得に(暴)の手が入っていたことがばれて,100条委員会や住民監査請求からいかにして逃れるかに汲々とする行政とは大違いです.同様に,8月21日にNHKTVの特番が家庭ゴミ対策の<御近所の底力>をやっていましたが,烏対策・トレー追放・景品つき缶ペコ器など,どれも金融ゴミに比べたら,楽しい遊びのゴミごっこにすぎないです.出演していた早稲田商店街の安井潤一郎や東大の安井 至には悪いけどね.」
「僕のいうゴミとの闘いは,最大の産廃である建設廃材との戦いを素通りしては理解できないでしょう.実にスゴイ例があるのです.東京都の夜間中学廃止に反対した高野雅夫一家が,国鉄の古枕木6000本を使って,三宅島に<生闘学舎>を建てたのです.高須賀 晋の設計で,建物は81年度建築学会賞をとりました.女性も含めた高野の協力者と高須賀らの約5年間の悪戦苦闘は『生闘学舎建設記録』(修羅書房, 82.01)に収録されています.何がスゴかったのか.仕事の辛さにもとづく仲間内の喧嘩と,砕石や犬釘の喰いこんだ堅い栗の木との格闘です.高野の長男の高野 生は後日,法政の<教育経済論>(担当:尾形 憲)の教壇に中学生として立ったのです.つまり尾形もスゴかったのです.ついでいえば,この講義はいつもテンプラ学生で満員だったそうです.」
  ン〜〜ン,この話を脚本にできたら劇団四季とまではいかなくても,わらび座あたりの絶好の出し物になりそうですね.
「ええ,それは流石君の仕事ではないかなー.次の(12)でもう一度詰めましょう.」 

                 (流石 さざれ/評論家)