■『腐敗公社』に関する往復書簡

2001.10.09
早稲田出版編集部 有川靖夫様(公明党大田区議会議員)

前略 貴著『腐敗公社』を発行日前に買い求め、一気に読みました。新聞広告では「実名入り」とあったからです。本屋では平積みになっていました。

数年前に、猪瀬直樹(現行革断行評議会長)の道路公団の腐敗ぶりを扱った岩波新書(本は行方不明で書名不詳)を読み、公共事業の影に潜む腐食ぶりを知って腹が立っていました。貴著を読み進むうちに「坂井順行(まさゆき)」の実名が出てきてビックリしました。これは私が京大土木の助教授になった昭和33年に入学した学生(昭和37年卒、39年修士修了)で、2年後には私は別の学科に転籍したので、彼の顔はもう覚えていませんが、名前の読み方をよく覚えていました。早速同窓会の名簿を見ると、まさに貴著にあるとおりの記述がありました(著書で指摘している公社には、ヒラ社員10人に対し運輸省や東京都の天下り役員が14人もいて、都税で通常の2倍の価格で買い上げた建設残土を独占的に地方の埋立地に運ばせる会社を配下に擁するpaper公社)。

貴著にあるような天下りのやり方や残土の独占をするpaper companyの方式を彼が編み出したかどうかは不明ですが、道路公団の場合でも、その下部にある道路協会が約3000の独占会社を擁していて、それを扇大臣が擁護している様はまさに噴飯もの、マスコミは実態を徹底的に公開すべきです。参議院選挙で2度目の当選を果たした、元建設省河川局長岩井國臣にしても、現職中はまっとうな発言をしていたのに、最近は、「道路公団の改革がなぜ必要かさっぱりわからん」とTVで喋っているのを見て唖然としました。

建設残土は産廃ではない、と東京都がいうのもいわば言い掛かりのようなもので、今の産廃の分類にしても、企業有利を仕組むための「廃掃法」の便法であることが明らかなのに、廃棄物を扱う学者でさえ、法律の条文を有難がって受け入れているのが実態です。最終処分地に比較的余裕をもっている神戸市は、建設残土をsandwich式埋め立て覆土に使っていますから、坂井の会社は、埋めたて用地の足りない関東圏の足元をうまく利用した抜け目のない霞ヶ関ないしは東京都の悪巧みだと言わざるを得ないでしょう。

坂井の会社関連だけで、本を1冊書かねばならない日本の実情は、全くお寒い限りです。いずれにしろ、山形平次氏(著者の有川氏が山形出身であることと銭形平次に自分をなぞらえた)の今後のご活躍を祈念します。なお、昭和天皇の戦争責任を議会で発言して背後から襲撃された本島元長崎市長や産廃立地問題で暴力団に狙撃された柳川御嵩町長のような前例もありますからご注意下さい。 草々

                   末石冨太郎(著述業/阪大名誉教授)


[1018日付け 有川氏の返事の要約=礼の部分を省略]

 出版後、東京湾の漁業組合の大ボスと皆に恐れられている人物から電話があり、○○造船(公社の息がかかった会社)が民間残土を不法に海上輸送しているとの部分が気にくわぬと、ものすごい勢いで脅しがあった。これは予想していたことで、本の中では正式に認めるべきだと書いたので、何とか押さえることができた。「今度だけは許す」と。また久米宏のニュース・ステーション番組の記者が自宅に来て取材をしたが、いよいよの段階でTV局に圧力がかかり、放映はボツになった。理由は、東京湾の花火大会をTV朝日が流すのを、都の港湾局や海運会社がスポンサーになっているから、とのこと。権力と商業主義に弱いTV局にガッカリ。

 また、都港湾局は大手海運業者を数社呼んで、「大田区の有川が民間にやらせろ、とウルサイので、お前らにやらせるから検討しろ」とのこと。「城南島の港を貸す、土量の情報は出さん、自分らでやれ」と、私が主張してきた京浜島の中小企業3社を無視した対応に、唖然としている。投げかけられた海運業者は、独禁法違反をどうクリアーするか名案がなく、ストップ状態にある。役人の「官は上、民は下」の姿勢は一向に改まらない。

 これらはひとえに政治家がだらしないため。東京の予算は韓国の国家予算に等しく、職員も6万人を超え、一議員がチェック機能の責任を果たすのは大変なのかもしれんが、私見では、役人を指導できる都議会議員が皆無に等しく、この問題を取り上げる議員がいない。逆にこんな本が出たがどうなんだと港湾局幹部に問い合わせはするも、役人に都合よい説明を聞いて教えてもらっているという情けない状態。中には都議として直接の所管なのに、よくわからないと逃げる者もいる始末。一級下の区会議員に解明されたことが面白くないという態度を示す都議もいて知らぬフリをしている。国会議員にも衆参合わせ20人近い要職の方に照会したが、今のところ音なし。特殊法人改革で戸惑っているから仕方ないとは思うが。

 小泉さんも大変だ。石原大臣もどこまでできるか。利権にしがみつくダニをどこで退治できるのか。知人の新聞記者は、改革は思うようには進まず、小泉さんは挫折すると予測しているが、末石先生はどう見ているか。小泉さんに変わって改革できる総理の顔が見えないため、困ったことだと思う。[後略]


[これに対する末石の打診]

早速ご返事を頂きありがとうございました。この件に関しひとつお願いがあります。私が去る3月にすべての仕事から引退したことを契機に、弟子たちがInternetを使った「末石環境塾」を立ち上げてくれ、これに私が書いたものを流すことにしました。貴著の要約などが絶好の素材なのですが、要約は著作権違反になるので、感想文に止めざるを得ません。これを見て読者が増えるとよいわけです。これに加えて今度下さったご返事の類も登載できればいいなと思っています。そこでお願いとは、1018日付のお手紙の内容を公表してもよろしいか?ということです。私の今の観察では、「小泉改革」はだんだん対症療法的になって多分失敗し、どこかでまた裏ワザを使った公共事業が噴出して、われわれの郵貯も消えてしまうのでは、という図式が見え隠れします。衆院補選や市長選も変わりばえせず、選挙民の思考はいつも刹那的で、情けない限りです。                  

[参考:最近の金子 (慶応大)の論評=バカにつける薬はない。Bushと小泉のことだ。なのに、いつも自民党が選挙で勝つのはどうしたことか。]

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