末石月報 第2報mass mediaへの情報参加結果の感想)

[まえがき]

 筑紫哲也News231012日の番組が、小泉総理を迎えてtown meetingTV版を開くので、電話、faxe-mailなどでの視聴者の意見を募集した。当時国会は、「911日の」から始まる長い名前の特別措置法の審議過程にあって、これを中心としたものが課題設定されていた。私は今まで、この種のmedia event参加したことは全くないのだが、多少暇になった気分が作用したのだろう、どんな議論が行われるのかの興味もあって、いつもながらの回りくどい内容になるのを承知の上で、下のような文面をメールで送った。もちろん、数千にも及ぶ一般視聴者の意見の代表として、採用・公表されることは期待しなかったが、最近『週刊金曜日』への投書が採用されたので、「もしや?」という気持がなかったといえばウソになる。


[発信意見の全文]

01.10.12 「小泉総理のtown meeting @News23へ」末石冨太郎(著述業70才)

 交通弱者(traffic poor)という言葉がある。これは身障者などに対する社会的条件を表す表現だが、国民の知的条件を表す情報弱者(informative poor)を想定してみると、結局はこれも、発信されている情報の社会的条件で規定されているといえるだろう。例を挙げると、NHKの教育TVの視聴率はわずか0.1%、対して英国で市民が参加した環境に関する科学調査の成果がBBCで放映されると、視聴率は8%になるという。一般の日本人の主要情報源は新聞1紙とTVだけで「十分間にあっている」という。CATVなどの多channelは含まれず、総合雑誌やさらに週刊誌でさえ発行部数は減少している。繁昌しているのはスポーツ紙だけだ。

  こういう情報弱者に対するアンケート調査で、内閣や総理に対する支持率が70%だとか90%だとかと喧伝される。でも、なぜ自民党支持かというクロス集計に「他の政党よりマシだから」というあいまいな選択肢が用意されているような社会調査結果を笠に着て、国民の支持を得ていると誤解するのはいかがなものか。学者にも大きな責任があって、いかなる調査をしても統計的な有意性を金科玉条にしてきた。しかし最近やっと『社会調査のウソ』(谷岡一郎、文春新書)が暴露され出した。

 もっとも難攻不落と思える扇千景大臣の居城に第一の集中砲火を浴びせるのには、国民も納得しようし、絶叫もむしろ効果的だろう。だがしかし、もう十年近く前になるが、自衛隊の中堅層に対するTV取材を見ていて、一人が「百年軍を養うは、一日これを使わんがためなり」と叫んだのをみてビックリした。つまり自衛隊の内部ではこういう教育が行われているのだな、ということである。熟慮に熟慮を重ねるなら、ここに述べたようなことにも頭がめぐるbrainを採用されないと、日本の将来を誤ることは必定である。


 [結末と感想]

 当日は、TBSのスタヂオへ約100人の視聴者が呼ばれていて、彼/彼女らは、総理が到着するまで6時間も前から待たされたそうだ。

 Faxなどによる総理宛ての意見として公開された代表的なのは、「総理、頑張って下さい」式のもので、もちろん、米下院のBarbara Lee議員がテロへの報復戦争に反対したのと同種のものもあったが、概して、論旨は明確だが、説得力の根拠は乏しく、これはtown meetingなるものの見せかけ性を示したのだ。

 スタヂオの参加者に直接意見を求めた場面では、アフガンで実際に地雷除去作業をしているNGOメンバーから「特措法に関連してわれわれは何をすればいいのか」という質問が出た。これに対して総理は「戦争が行われているところへは自衛隊を絶対派遣しない」という、平行線の答をしただけであった。ここでは当然筑紫キャスターが割って入って、小泉の答弁がピント外れなことを指摘して、まともな見解を述べさせるべきなのに、そのまま放置された。筑紫の筆致はいつも懐が深くて読みごたえがあるのだが、実質的な討議を誘導するのは下手だな、というのが私の実感である。マスメディアには所詮限界がある、という哀れな結果でもあった。この日を境に、私はNews23のスイッチをひねるのを止めた。 

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